黒色春日和

ダーティな思いつきをキューティにお届け☆

ショッピングモール

郊外に大きなショッピングモールができた。

それはとてもとても大きなショッピングモールで東京ドーム2000個分の敷地面積があった。

最初このショッピングモールは繁盛していたものの、やがて宝石店を経営しているOという来店客からクレームが入った。

「とても一日じゃ買い物が終わらないからなんとかしてくれ」

それ以来ショッピングモールは縮小を続けている。

専門家の予測によると最終的には東京ドーム0.00002個分の大きさになり、その後すみやかに消滅するらしい。

 

大前健斗は小学4年の時から兜を被っていた。

「なんで兜を被っているの?」

大前健斗の友人だった広瀬寛治はある日聞いてみた。

すると、大前は「だって頭が危ないじゃないか」と答えた。

広瀬が「誰に狙われているわけでもあるまいし」と言うとすかさず大前は

「全人類が僕の頭を狙っているんだ!!!」と怒鳴った。

広瀬は大前の両親に早めに大前を精神科へ連れていくことを勧めたが、あいにく大前の両親も大前の兜をひどく気に入っていたため、その意見を完全に無視した。

 

大前は脂身の多い肉を食べたあとに必ずこう言う。

「まるで僕の頭みたいだね」

それを聞いた両親は大笑いするのだった。

一晩中大笑いするのだった。

 

木星からの使者

夜、なんとなく寝付けなくて映画を観た。

2001年宇宙の旅」である。

ラストの地球より大きい赤ん坊が出てくるシーンが印象に残った。

自分もあのくらいの大きさだったらもっと楽しい人生が送れていたかもしれないと思った。

水を一杯飲んでから眠りにつこうとしたら枕元に気配がする。

サングラスにスーツ姿の男が立っていた。

「私は木星からの使者である」

体型は華奢なくせに随分と野太い声だった。

「何の用ですか」

木星へ帰るための宇宙船代が足りなくなったので金を貸してほしい」

「いくらですか」

「2万円」

「なんで足りなくなったんですか」

「競馬でスッた」

「なんで僕のところ来たんですか」

「さっきSF映画見てたし私みたいな宇宙系のやつに優しくしてくれるかなー、と思って」

「なるほどねえ」

 

2万貸した。

木星からの使者はありがとうと言って去った。

普通に玄関から出ていった。

気になったので調べてみたら部屋の中から小型の監視カメラが8個見つかった。

動揺はしたものの明日も朝早くから仕事だったのでとりあえず寝た。

 

逆オデュッセイア現象

村で一番の美女が結婚した。

村の男たちは嫉妬に狂い、その夫を角材で打った。

ある者たちはヒノキの角材で打ち、ある者たちはスギの角材で打った。

さらにある者たちはブナの角材で打ち、その他の者たちはケヤキの角材で打った。

 

ヒノキの角材で打つ者たちはこう言った。

「我々はこの男を許すことができない。だから打つ」

スギの角材で打つ者たちはこう言った。

「我々はこの男を許すことはできるが、許すまでに時間がかかるのでそれまでは打つ」

ブナの角材で打つ者たちはこう言った。

「我々はこの男を許すとか許さないとかそういう話以前にそもそも男を見たら打つことにしている。だから打つ」

ケヤキの角材で打つ者たちはこう言った。

ユリイカアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」

 

長老はその様子を縁側から眺めながら従者に言った。

「まるで逆オデュッセイア現象だな」

従者はこう返した。

「まるで逆オデュッセイア現象ですねえ」

従者はこう返したものの古典の知識に疎かったので、長老のその造語の意味がいまいちピンとこなかった。

 

The basement maybe ……

秋。空白の延長。眠りにつきながら。迷宮。どんづまりの壁の向こう。星々。果てしない。浮遊。野良猫を撫でる。撫でない。真っ暗。永遠に。石板。背中に張り付く。フィクション。そうフィクションとしての私。何の気配もない。ノートを開く。倦怠。零落。炎上。習作たちが。その炎の中へ。鳳仙花。空回る宇宙。いくつもの筋。アイロン台をひっくり返す。裏側。虚像。散財。彼らは望んでいる。彼らは行進する。彼らは解散する。そのうちのひとりとしての私。そう大衆としての私。かけがえない。浮遊。どうにも止まらない。向こう側に行ってみたい。惜別。安堵。ノートを閉じた。計量カップ。増殖。口実を探す。口実は見つからない。どうしてもここからは逃れられない。どうしてもここからは逃れられない。諦念。

 

秋。空白の延長……。

Lazy Queen

彼女は結婚してからというもの、すっかり動かなくなってしまった。

私は彼女を動かそうと色々と画策してみたがどれも無駄だった。

彼女は毎朝私に向かってこう言う。

「おはよう今日も私の人生はあなたのもので私のものではない」

その発言は私の交感神経を刺激するには十分すぎるほどの威力を秘めていてどれだけ睡眠時間が短ろうが一気に目が覚めてしまうのだった。

 

別れればまた以前のようにちゃんと動く彼女になるのだろうと心の中では思っているもののなかなか別れを切り出せないでいる。

なぜなら洗濯機の横に積まれた洗濯待ちの衣類の山、台所を占拠する皿コップ箸その他諸々のChaos、部屋と廊下全体を薄く白に染め上げる埃が私や彼女の怠惰を絶えず糾弾しており、それらは私に生活上の困難を突きつけ2人での解決を強要している。

 

ある日、彼女がノートのメモをしていた。

こっそり覗いたらこんな文字列が書かれていた。

「2727827993790879872992799740892799749….…」

私はちょっと安心した。

 

 

孔雀のいる公園

「あの辺には孔雀のいる公園があるんだよ」

「へえ、珍しいね」

「しかも4羽もいる」

「いっぺんに見たら目はチカチカしそうだね」

「君は孔雀を見たことあるかい?」

「全くないね、父親が極度の動物嫌いで子供のときから一度も動物園に連れて行ってもらった記憶がないし、僕にもその気がある」

「そっかあ、僕は好きだけどなあ、動物」

「何の動物が一番好き?」

「オランウータンかな」

「オランウータンかあ」

「オランウータンのどこが好きなの?」

「具体的にどこが好きとかはないね、なんとなく漠然と好きなだけ」

「うちの父親も動物のことが漠然と嫌いだったなあ」

 

こうして熱せられた大鍋の中で会話していた二人の姿形は次第に歪んでいき濃厚なとんこつスープの中に溶け込んでいった。