黒色春日和

ダーティな思いつきをキューティにお届け☆

大きな人間

僕はまだ小さな人間で、大きな人間になるのにはまだまだ時間がかかるのだろうけど、そんなことを言い出したらあそこにいるあいつや僕のすぐそばで株取引について弁舌をふるっているこいつだって、大きな人間になるにはまだまだ時間がかかるに違いないのだ。

 

真夜中に散歩するのが好きだ。

真夜中の街灯の下のはかならず大きな人間がいる。大きな人間は僕が通り過ぎようとすると決まってこう言うのだ。

「マッチ棒いりませんか?」

もちろんそいつは少女じゃない。れっきとした大きな人間である。

僕は絶対それを断ることにしている。断らないとぼったくられるからだ。

小さな人間にぼったくられるのはいいが、大きな人間にぼったくられるのは嫌だ。権力の差を見せつけられてる気がするから。

断ると大きな人間はしょんぼりする。そのしょんぼりっぷりときたら街灯がチカチカしはじめるほどで、要するに大きな人間の感情というのは電気系統に大きな損傷を与える。

「なんでいらないんだい?」

僕はその質問には答えない。黙って少し早足で遠ざかり、大きな人間が急速にしぼんでいくのを、その際の叫び声がだんだんと弱弱しくなっていくのを、あえて確認もせずに、「僕もいずれはああなるのだろう」という根拠のないあきらめとともに街路を歩んでいく。

 

僕はこの時間がたまらなく好きなのだ。