破談
窓の外では雪が降っていた。
野田は風船を膨らましおわると私に手渡し、外に出て行った。
「手袋持ってる?」
私が聞くと野田は首を横に振った。
私はひとつ溜息をついてポケットから赤い毛糸の手袋を取り出し野田に手渡した。
「使えよ」
「嫌だ」
「使えったら」
「嫌だ、絶対に嫌だ」
野田が頑なに拒否するので私は激昂し
「手がかじかむだろうが!!」
と叫んだ。
野田は渋々両手に手袋をはめ外に出て行った。
私は椅子に座りダージリンティーを飲み干すと野田との出会いを思い出していた。
氷点下になりかけたある冬のことだった。
横断歩道で信号が変わるのを待っていたら野田に話しかけられた。
「やあ、第二部隊の人だよね?僕は野田っていうんだ」
野田はそのころはまだ髪が生えていて両目ともきちんとついていたし、鼻も耳も削がれていなかった。
「君はどこの部隊?」
「第四部隊。雑用ばっかりの隊だよ」
私はキャンプまでこの男と歩くのかと思うと少し嫌だった。
出勤の時間は私にとって神聖な時間であり誰にもそれを邪魔されたくなかった。
「第四部隊といったら佐野さんがいるね」
「佐野さん!僕の直属の上司だよ」
野田は饒舌に隊員内で呼ばれている自分のあだ名や佐野さんがコーヒーをおごってくれたこと、佐野さんが別の隊に異動になるので盛大なパーティを開いたことなどを述べた。
キャンプのそばにあるローソンにつくとちょっと買い物あるからと野田は中に入っていった。
私はひとつ溜息をついて空を見上げると雪が降り始めていた。
そしてキャンプ内から警報が聞こえてきた。
開戦の合図だった。